1998年11月25日

失われゆく自然環境の再生を目指して




1998年11月25日 ネクサス12月号

失われゆく自然環境の再生を目指して
天然石を使った多孔質環境ブロックの提案

建設省は2001年をめどに、コンクリート一辺倒だった治水工事の方向性を転換し、「多自然型工法」を目指してコンクリートの使用を止めていく方針を打ち出している
治水事業において、安全性や災害防止のみを目的にした工事は、終わった。これからは、人々の日常生活のなかに位置する公共物として、圧迫感を与えるものではなく自然景観の保護や周囲の環境になじむような、「やさしい素材」を使うことが求められるだろう。
新たな時代に応える環境素材、「生態系多孔質環境ブロック」を開発した日本ナチュロック株式会社をたずねた。

・コンクリートと天然石の合体

 社名に使われている「ナチュロック」という言葉は、「ナチュラル」と「ブロック」とを合わせた造語。この一語に、商品の特性が良く表れている。
「一言でいえば、コンクリートブロックの表面に、自然石と砂を埋め込んだ生態系ブロックです。コンクリートの強度に加え、表面の砂と天然石で覆われた部分にコケが生えたり虫や小動物が住み着いたりすることで、美しい景観を再生します」
と佐藤俊明専務は説明し、ナチュロックの実物を見せてくれた。コンクリートブロックの上に、黒々とした溶岩が乗っている。
「これは主に、関東周辺で使うための素材です。関東はそもそも富士山の噴火によってできた土地。ですから表面素材も溶岩がなじむのです。本気で各土地の景観や生態を守ろうとするなら、その地域の石を使うべきですね。我が社では可能な限り、地場の素材とコンクリートブロックを組み合わせていく、本ものの生態系ブロックを目指しています」
佐藤専務のユニークな発想の背景には、ヨーロッパの街を視察して歩いた経験がある、という。
「スイス、フランス、イタリアなどでは、家も道も壁も見事に天然石を利用していた。コンクリートブロックなど、1つもないんです。私は街の美しさに感動しました。景観を守るにはそこにある石を使うのが一番だということを学びました」

・落石事故から開発した景観材

 そもそも、ナチュロックを開発するきっかけは、1985年の富士山の落石事故だった。
落石を防ぐために、登山道の足留め材を設置することになったが、コンクリートブロックを積むだけでは、富士山の美しい景観になじまない。そこで表面を溶岩で加工したところ、思わぬ好評を得た、という。
「自然との調和と工期の短さが評価されて、その後次々に、富士五湖や周囲の河川の護岸工事に採用されていきました」
開発当初は690個にすぎなかった出荷量も5年後には15万個に達し、その後全国各地のブロックメーカーと提携した結果、96年には160万個を販売する急成長ぶりを見せている。
各地の天然石を活用するとなれば、ある程度コストがかかることも覚悟しなければならない。
「建設省の多自然型川づくりの方向性はコンクリートに代わる素材を使う提案をしていますが、同時にコストはできる限り抑えるといった方針を打ち出している。景観を大切にしようという考え方は大賛成ですが、いいものを作ろうとすればある程度コストがかさむことを、建設省はぜひ理解してほしい」
と佐藤専務は言う。

・個人のにわから地域の環境保全へ

 加えて今年4月、日本セメントと共同で開発したのが、中小河川向け垂直緑化パネル「ナチュロックビオボード」。コンクリートボードの表面に、多孔質の天然石を合体させた商品だ。
多孔質なので保湿性に優れ、凹凸に生物が自然発生し、護岸工事のみならず、無機質なビルの壁面緑化や家庭のガーデニング、エクステリアなど個人のニーズにも応用できる、という。
「緑が美しいだけでなく、都会のヒートアイランド現象への対策などにも効果を発揮するはず」と、佐藤専務は胸を張る。
日本ナチュロックは、さらに新分野へと進出中だ。個人の楽しみであるガーデニング素材、ガーデンキットといった園芸分野へも、ナチュロック製品を展開させよう、と奮闘している。
「今、イングリッシュ・ガーデンが大変なブームになっていますが、そもそも生態系とは土地ごとに違う個性を持っています。海外の庭を真似するのではなく、自分の住む場所にとけ込むガーデニングを我々は目指したい。『ナチュロック・ビオガーデン』は天然石を主体に、水と植物、コケや生き物を組み合わせて作るミニガーデンです。地域に生育する植物を自由に植え込み、あるいは自然に飛来してきた種が天然石から発育し、水と調和して、そこにしかないビオトーブを再生することができます」
日本古来のコケやシダの魅力もぜひ再発見してほしい、と佐藤専務は言う。その狙いは、実は、「新しいガーデニングの提案」にとどまらない。
「自分の部屋やベランダから、地域の生態系についての関心をもつ。それが、周囲の景観、家の近くの川へと広がっていく。その時にこそ、本当の意味での景観保護が実現すると思うのです」
ビオガーデンが一時的なブームのなかにまじり込んでしまうことのないよう、会員を募って講習会を開き、考え方そのものを根付かせようとしている。
「若い人たちに、自分の周囲の植物や小動物に目を向けることの楽しさと大切さをぜひ知ってもらいたい。どんな大都会でも、ちょっとした隙間にコケが生え、植物が生きている。そうした発見が、感動となり、ゆくゆくは地域全体の景観保護や生態系の再生へとつながっていくはずです」
日本ナチュロックは、個人の庭から大規模な河川までを、しっかりと1本の線でつなげようとしている。